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江戸時代の器の価格から現在の器の価値を考えてみた

 現代の日本において、手仕事で作られる陶磁器の価格は一般に流通している大量生産の製品と比べるとかなり割高です。

 手仕事で作られる物はかかる手間や原材料費などのコストがかかるため価格が高くなるのも致し方ない面があります。

では、昔の手仕事で作られる陶磁器は今と比較して、どのようなものだったのか。

気になったので少し調べてみました。

1,江戸時代の器の価格

江戸時代後期になってくると、生産技術が向上し、比較的安価に大量の磁器の流通が可能になりました。

比較的安定していた江戸時代は物流網も発達しており、遠隔地の商品も手に入りやすい環境でした。

そのような背景もあり、磁器は庶民にも広がり、現代の日本の家庭のように磁器の茶碗が食卓に並ぶようになりました。

このような器を庶民にとって安い買い物だったのでしょうか。

昔の薩摩で稼働していた南京皿山窯において、市場価格の調査のために江戸の店に売り払われた商品の記録が残っているようです。

それによると、売られた薩摩焼は上中下の品質に分けられており、上手の湯呑みが一つ銀十三匁(現代価値でざっくりと11000円程),中一つで銀八匁から七匁五分(6700~6200円)、下で一つで銀六匁から四匁五分(5000~3700円程)で売り払われました。

通常は実際に店頭に並ぶときはこれより高くなります。

日本銀行金融研究所貨幣博物館の資料によると、米価換算で江戸中期~後期は一両は現代の貨幣価値で4~6万円ほど。

一両は銀60匁という公定相場があったとのことですが、実際は時価相場で交換されていたとのこと。

この記事では一両5万円とし、交換レートは公定相場を採用します。

2,江戸時代庶民の年収からみた器の価格

 上述の価格を見ると、一つ数百円で陶磁器を買える現代の感覚からすると、やはり少し高めな気がします。

では、それらを購入していた当時の江戸の庶民の年収はどうなのでしょうか。

ピンからキリまでありますが、江戸時代の大工を一例として、『文政年間漫録』によると当時の大工の年収は26両程度、支出を引くと銀70匁程度(現在では60000円程度)となります。

当時の磁器の器は支出の内訳にある道具・家具代の銀は120匁であり、その中に食器代が含まれると思われます。

大工の収入なら、あまり高価なものでなければ充分買える範囲ではあると思います。

3, 手作りの工芸品の現代の在り方について

江戸時代の器の価格と庶民の年収から考えても、現代の感覚的には食器としては割高に見えます。

それでも江戸の庶民の間で磁器の器が流通したのは、流行があっただけでなく、生活必需品としての性質を強く持っていたからではないでしょうか。

現代は安価なものが多くあり、それらでも十分に生活必需品としてたります。

その価値だけでみると手作りの工芸品は必要ではないでしょう。

また、モノの価格や性質も多様化しており、手作りの陶磁器などの工芸品が消費者に選ばれる強い理由も薄れています。

限られた時間やお金の中で価格が高いと感じられるものは、選ばれるには理由がいります。

工芸品がこれから生き残っていくためには、工芸品が持つ多様な価値が重要になります。

品質や独自性、手仕事の温かみなどの元々持っているセールスポイントの顕在化とともに、新しい価値を作り出し、多面的な価値を訴求する必要があると思います。

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