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文字をデザインとして使った工芸品の紹介

はじめに

日本の工芸品の種類は多く、そのぶん多くのデザインがあります。

しかし、いわゆる伝統工芸品などの昔から存在している工芸品には、書画などを別にすれば、文字で描かれたものは意外と少ないように思われます。

恐らく、これは絵の方がわかりやすいということがあるのだと思いますが、時代が進むにつれて文字をデザイン化した工芸品の分野が増えています。

これは、日本人の識字率の向上によって、文字をデザインに取り入れるようになっていったと思われます。

この記事では、意外と珍しい文字を使った工芸品の例をいくつか紹介させていただきます。

江戸手描提灯

中国から伝わったとされる提灯は室町時代頃から普及し始め、現在のように上下に伸縮できる形状になったのが江戸時代のことです。

提灯の「提」には手にさげるという意味があり、手にさげる灯りということでほぼそのままの意味です。

江戸手描提灯は江戸文字と言われる文字や家紋が描かれ、当時の人々には、灯りとしてだけでなく、お祭り用や看板用としても重宝されました。

よく時代劇で「御用」と描かれた提灯を目にしますが、江戸時代より昔からの提灯というわけでなく、わりと新しい時代の道具です。

当時の江戸時代の成年男子の識字率は8割とも言われており、文字入りの提灯が普及する土壌は充分備わっていました。

瓦版

『石本コレクション 諸国大地震之図』(東京大学総合図書館所蔵)

元祖マスメディアである瓦版が最初に発行されたのは江戸時代の初め、現存する最古の瓦版は大坂の陣(1614~1615)に関する記事です。

瓦版の名前の由来は諸説ありますが、一般的にはその出来が粗悪なものであったことから、半乾きの瓦に文字を刻したものから作られたという説が有名です。

しかし、瓦版と言う名前が登場するのは幕末の頃で、それまでは読売などと呼ばれていました。

瓦版の果たした役割は、今の新聞のようなもので、災害情報や美談、心中事件や噂話の類まで載せていたようです。

正確さは今の新聞のほうがはるかに上でしょうが、読み物としてはこちらのほうが面白かったかもしませんね。

こちらも文字が読めると言うことが前提の庶民向けのメディア媒体となりますので、これが大盛況していた江戸時代の庶民も含めた学問レベルの高さもあらわれています。

一子相伝の九谷焼

御製細字高台付酒器 小田清山 1874(明治7)~1960(昭和35)年 KAM能美市九谷焼美術館|五彩館|蔵 CC BY 4.0

石川県の伝統工芸品九谷焼に文字を描くことに特化した技術があります。

毛筆細字という技法で、和歌や古典文学などを極細の毛筆で磁器に書き込むというものです。

明治末期に初代小村清山が編み出した技法で、一子相伝です。

現在は4代目の田村星都さんが継承しています。

書の懸腕法(筆を持った手の肘を体側に付けず、肘を浮かせて書く方法)という技術に似たやりで

描いているとのことで、その技術レベルの高さに目をみはります。

こちらは模様としてだけでなく、意味のある文章として描かれており、これも鑑賞する人間が文字を読めることが前提にある技術だと言えます。

おわりに

やはり、寺子屋が爆発的に増える江戸時代以降に文字を含むものや文字をデザインとして使った工芸品が増えている印象があります。

江戸時代の末になると寺子屋は1万を超える数が全国にあったようです。

文化レベルの向上とともに、それに合わせた工芸品があらわれてくるのは面白いです。

それでも絵のほうが直観的にわかりやすいのか、デザインとしては文字よりも多いでしょう。

しかし、絵よりも数が少ないだけに文字での表現にもまだまだ可能性は潜在しているのではないでしょうか。

これからも文字をデザインとして使った新しい工芸品が増えれば良いなと思っています。

カッコイイので。

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