はじめに
日本の伝統文化の一つである妖怪は、古くから工芸品との関りが多くあります。
伝統工芸品も多くは昔は日用品であり、それだけ人々の生活に近いものであったので、人々の想像から生まれた妖怪と関わることも多くありました。
現代でいうところの妖怪と工芸のコラボのことですが、それらを紹介したいと思います。
工芸品本来の用途とのコラボ
江戸時代に庶民の間で催された百物語は、百のロウソクまたは行灯を用意し、一話怪談を語るごとに火を一つずつ吹き消していくという怪談話をする会です。
現代ほど娯楽の多くなく、夜の闇も深かった江戸時代にろうそくや行灯のぼんやりとした神秘的な光の中で、怪談話をするということが流行しました。
百の怪談を語ると怪異が起こるということで九十九話でやめるのがルールです。
百話目を語ると「青行灯」という妖怪が現れるともいわれていますが、上記のルールがありますので、それについての話はほとんど残っていません。
「青行灯」は、鳥山石燕の『今昔百鬼拾遺』に描かれている妖怪として知られています。
百物語で使われていた和ろうそくは、西洋のロウソクとは違い、炎が大きく揺らめくのが特徴の一つで、その神秘的な雰囲気もあいまって、怪談を盛り上げるのに一役買っていたことでしょう。
現在は安価な西洋ロウソクに押されていますが、石油由来の西洋ロウソクと違い、植物由来の和ろうそくは環境にも優しいものです。
環境への配慮が求められる現代には和ろうそくは合っているのではないでしょうか。
百物語の創造性と、和ろうそくの環境に対するやさしさは、新しい現代的なエンターテインメントとなる可能性を秘めているかもしれません。
工芸品自体が化けるコラボ
物自体が化ける妖怪として有名なものは、土佐光信によって描かれたと言われる真珠庵本の「百鬼夜行絵巻」です。
京都の町を夜な夜な妖怪たちが練り歩くというテーマの絵巻物で、派生も多く、色々な作品が残っています。
器物の妖怪が多くあらわれることが特徴で、いわゆる付喪神が主役です。
楽器や沓、器や釜などの日用品が妖怪化しており、彼らが練り歩く姿は実に生き生きとしています。
他にも提灯小僧や化け傘など当時日用品として使われていた工芸品において化けると言われているものは多くあります。
付喪神として描かれていたものの多くは、現代では日用品としてではなく、伝統工芸品として残っています。
現代において物が妖怪化するということはほとんど言われていません。
これは昔からある物の数自体が減ったことや、信仰心が薄れたこともありますが、物を長く持つことをしなくなったことも大きな要因であると思います。
新しい物が多く、また物の入れ替わりも早いため物を大事にせずに、物に対する愛着が昔よりなくなっています。
愛着は物に念を込めるということであり、それが物が魂を持って動き出すということに通じます。
物があふれている現代だけに、それらをもっと妖怪化していくことで新しい流行が生まれ、物への愛着が深まり、物を大事にする習慣が復活するかもしれません。
魔除け・厄除けとのコラボ
現代の社会で妖怪が流行することは中々ないように思われましたが、コロナ禍の時期に「アマビエ」が病気に対する魔除けとして色々な形で流行したのは記憶に新しいです。
元々江戸時代の後期に肥後の国(現代の熊本県)にあらわれたと伝えられています。
アマビエは未来の予言をし、将来疫病が流行するので、疫病除けとして自分の姿が描かれた絵を人々に見せるようにと言ったことから、アマビエの絵は疫病除けとされました。
その二百年近く後に、SNSでコロナ除けとしてその絵を載せることが流行したのは面白い話です。
伝統工芸品としてもそのアマビエの姿はデザインとして採用され、現代のコンテンツとのコラボではなく、古くからの工芸品と妖怪文化のコラボが起きました。
これは日本の伝統工芸品と伝統文化の新たな展開が感じられる出来事で、まだまだ可能性が眠っていそうです。
おわりに
手仕事が主な伝統工芸品も日本の伝統文化である妖怪も、効率性を求める現代の風潮では必要のないものかもしれませんが、どちらも文化や風習が変わっても生き延び、コロナ禍においてそのコラボは注目されていました。
昔のコンテンツとしてではなく、現代のコンテンツとして工芸品と妖怪のコラボには可能性を感じます。
人間は合理性や効率性によって行動しているわけではなく、そこから離れた心の遊びのようなものを持っています。
昔から長く続いている伝統工芸品も妖怪も、人の心に馴染むものがあるからこそ今でも残っているのではないでしょうか。
AIの発展が著しい現代において、合理性、効率性から離れた人の心の領域はこれからより重視されるようになると思います。
そのような時に、ただの物としてだけでなく、人の温もりの感じられる伝統工芸品や妖怪文化は人の心に無言の癒しを与えてくれるのではないでしょうか。
大事にしていきたいものですね。