・はじめに
日本各地の工芸品は色々な用途を持っています。
元々茶碗は飯碗ではなく、お茶を飲むために使われていたものが転用されたものです。
日本では名前と用途が違う道具が結構多いです。
工芸品の用途が色々あるというのは、便利ですが、同時に本来の役割を薄めさせるということでもあります。
そのような工芸品の中でも、その地方の郷土料理専用というようなものもあります。
その中のいくつかを郷土料理と一緒に紹介していきたいと思います。
・にしんの山椒漬け×にしん鉢(会津本郷焼)
にしんの山椒漬けは、身欠きにしんと山椒の若葉を漬けたもので、昔は大き目のにしん鉢で大量に漬けて保存食とすることもあったようです。
身欠きにしんは、乾物のにしんで山に囲まれた会津地方では重要なたんぱく源となりました。
雪国でもある会津では身欠きにしんの山椒漬けは、大事な保存食となりました。
専用の器であるにしん鉢は、桃山時代に作り始められたと言われる、
福島県会津地方の伝統工芸品である会津本郷焼の陶器で、身欠きにしんの山椒漬けを作るためのものです。
専用の陶器であるにしん鉢が存在することが如何ににしんの山椒漬けが重要視されていたかの証左であると思います。
にしん鉢は特に、会津本郷焼の宗像窯が有名です。
ブリュッセル万国博覧会でもグランプリを受賞しており、民藝運動の生みの親である柳宗悦も絶賛しています。
かかった釉薬の混じり具合が独特の景色を生み出しており、鑑賞しても楽しめます。
・こづゆ×手塩皿(会津塗)
こづゆは、福島県の郷土料理で貝柱の出汁で煮込んだきくらげやサトイモなど種々の具材を豊富に入れて作られます。
主に冠婚葬祭時の料理で、会津塗の漆器に入れて供されます。
この時に使う会津塗の漆器は底の浅い朱塗りの椀で手塩皿と呼ばれます。
主にこづゆに使うのでこづゆ椀とも言います。
会津塗は福島県会津若松市で作られる漆器で、1590年に蒲生氏郷が前の領地の日野から木地師や塗師を呼び寄せて、漆器を作り始めたのが始まりであると言われています。
朱塗の漆器はハレの日の料理であるこづゆにはふさわしいということでしょうか。
専用の器があるということでも特別感が出ていると思います。
3,泡盛×抱瓶(壺屋焼)
泡盛は沖縄県で作られる蒸留酒であり、特に沖縄で作られるものは琉球泡盛と言います。
日本酒の焼酎と違い、黒麹を使うことを特徴とし、伝統的な製造方法で作られています。
抱瓶(だちびん)は沖縄の泡盛用の携帯酒器です。
郷土料理からはちょっと外れるかもしれませんが、紹介させていただきます。
沖縄には大きく二種類の焼物があり、無釉で焼き締める荒焼(あらやち)と施釉陶器の上焼(じょうやち)があります。
現在の主流は上焼であり、沖縄らしいおおらかな絵付けがされています。
17世紀、薩摩の侵攻時に人質として連行された琉球の王子が、帰還時に三人の朝鮮人陶工を連れ帰り、その技術が伝わったのが始まりであるとのこと。
抱瓶は上焼であり、絵が彫り込まれていたり、鮮やかな彩色をされていたり,、象嵌があったりと様々な装飾の工夫がされています。
しかし一番の特徴は携帯用の酒器であり、形が独特で三日月のように曲がっていることでしょう。
この形は、腰に密着するように作られており、携帯時の利便性を意図されています。
祭りや闘牛など催し物がある時に持って行った泡盛で一杯と、やっていたようです。
まさに、沖縄と泡盛の関係を象徴しているような酒器だと思います。
おわりに
紹介した伝統工芸品は地域の郷土料理と結びつくことで独特の位置を占めていると思われます。
郷土料理の歴史と伝統工芸品の歴史が結びつくことで、他にはない地域ブランドとしての価値を生み出しています。
近年衰退が伝えられることの多い伝統工芸品の業界ですが、地域の文化や料理と結びつき、地域により特化した伝統工芸品を作り出していくことが、これから重要になっていくのかもしれません。